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The First Chapter : Interview with Yana Sakhno (English ver.)

             This conversation marks the seventh interview in the series ‘Defining Moments: The First Start or the Turning Moment’. We meet Yana Sakhno, a ceramic artist from Monchegorsk who has found her voice in Saint Petersburg. Trained in costume design but ultimately drawn to clay, Yana builds tactile worlds inhabited by singular characters—an approach that crystallized with her first BLOB, when emotion began to lead thought. Music and cinema set the rhythm of her practice. The painters Vrubel and Vermeer, and the satirical charge of James Ensor, inform her sensibility; among contemporary sculptors, sh...

The First Chapter : Interview with Syan Hu (Japanese ver.)

     







本インタビューは「Defining Moments」第一章「作品の出発点、あるいは転換点となった瞬間」の第三回インタビューとして、アーティスト、シャン フー(Syan Hu)の歩みをご紹介いたします。


ロンドンを拠点に活動するアーティスト、フー・シャン(Hu Syan)は、無常と生態系の衰退というテーマを深く探求しています。彼の芸術的な旅は、幼少期の骨折から始まり、それが脆弱性に対する深い探求へとつながり、現在の作品に重要な影響を与えています。現在、王立芸術大学で写真学の修士課程を履修中のフーは、写真、音、バイオマテリアルを有機的に統合して作品を制作しています。日本の「もののあわれ」の概念や谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に深く影響を受けたフーの作品は、侵食と静寂の中に見出される美を受け入れ、時間が有機的な変容を通じて流れる様を表現しています。彼のプロジェクト「Kara殻」は、この哲学を具現化し、モンゴルのホーミー(喉歌)を用いて言葉では表現できないものを伝え、イメージ、物質、音が調和して共存する空間生態系を創造しています。予測不可能性を受け入れ、フーのスタイルは明瞭さよりも感受性を重視し、ジェーン・ベネットや山本昌男といった思想家やアーティストからインスピレーションを得ています。新たな芸術的領域を探求する中で、フーは腐敗し、制御を拒む素材に魅了され、バイオマテリアルの成長と写真的時間を融合させたハイブリッドなインスタレーションを創造しています。


本テキストは、作家の声を最大限に尊重し、意味の明瞭さを保つために最小限の校正のみを施しました。この文章が作品理解への小さな灯火となり、皆さまの鑑賞体験に寄り添うことができれば幸いです。それでは、ここからは作家自身の言葉に耳を傾けてまいりましょう。




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Q. 本日はお忙しい中、インタビューのお時間いただき、誠にありがとうございます。

はじめに、作家としての活動と現在取り組まれているプロジェクトについて簡潔にご紹介いただけますでしょうか。


A. 私は多言語(中国語、英語、日本語)環境で制作するアーティストで、現在ロンドンに拠点を置きながら英国王立芸術大学で写真を学んでおります。写真と音響、そして生体素材を用いた実験を通じて、無常というもの、生態系の朽ちゆく美しさ、そしてポストヒューマンな変容を探っています。


物の哀れ、そして谷崎潤一郎の「陰翳礼讃』から深い影響を受けながら、解剖された爬虫類や甲殻類の殻、菌糸体、菌類の胞子といった有機的な残滓と向き合っています。これらは破綻と生命、静寂な生の記憶を宿した素材たちです。私の作品では侵食と静寂を受け入れ、時の流れを出来事ではなく、有機体の変容そのものとして捉えようとしています。


作品の背景にはジェーン・ベネットが提唱するヴァイブラント・マターやニューマテリアリズムの思想に共鳴しており、素材たちを鑑賞者との静かな対話を紡ぐ主体として扱っています。解釈よりもむしろ、共鳴を大切にしたいと考えています。


近作「Kara殻」では、こうした探求を多感覚的なインスタレーションへと展開しました。モンゴルのホーミー(喉歌)が生み出す低周波の振動を通して、語り得ないもの一殻、傷痕、菌類の痕跡一に声を与えようと試みています。イメージと物質、そして音が溶解と回帰という静謐な循環の中で呼吸を共にする、そんな空間の生態系を作り上げたいと思っています。







Kara #7





Q. 作家としての道を歩むことになった最初のきっかけや、制作に深く没頭するようになった決定的な瞬間はございましたか?その頃を振り返られる時に、特に印象に残っているイメージや感覚がございましたら、お聞かせいただければと思います。

A. どのようにして芸術家になったのか、その始まりを振り返ってみますと、四歳の時に経験した骨折にまで遡ります。左腕の重篤な骨折により腕が永続的に曲がってしまい、目に見えるこの傷は幼少期を通じて羞恥心と疎外感を呼び起こしました。その時から自分の身体との不快な関係が始まったのです。

時が経つにつれ、外骨格生物たち(蟹や海老のように失った手足を再生できる存在たち)に自分を投影するようになりました。最初は彼らの形態、殻の脆い硬さに惹かれていたんです。でも後になって気づいたのは、言葉では表現できないものを表すためにこれらの生物を使っていたということでした。借り物の構造で自分の脆弱性を包んでいたわけです。その衝動が結局、「殻(Kara殻)」シリーズと「菌糸対話(Mycelial Dialogues菌絲對話)」 シリーズの土台になりました。

転換点は劇的なものではありませんでした。むしろ静かな変化でしたね。暗室で甲殻類標本のイメージがゆっくりと現れてくるのを見つめながら、予期しなかった静寂を感じた瞬間を覚えています。まるで言葉にできなかった何かが居場所を見つけたかのようでした。その瞬間、芸術は選択ではなく、肌の下に生きているものたちを翻訳するために自分が必ずしなければならない仕事なのだと悟ったのです。






Q. 制作を続けていく中で、スランプや困難を感じられた時期はございましたか?そうした時期をどのように乗り越えられ、その過程が作品の方向性や作家としての独自性を明確にする上で役立ったでしょうか?


A. はい、生物学的な素材を扱い始めた初期の段階で、創作のスランプを経験しました。完璧なキノコの形を育てようと試みましたが、カビが絶えず発生しました。当初はこれを失敗と見なしていましたが、時が経つにつれ、カビを生き生きとした、しぶとく、そして不思議な魅力を持つ存在として捉えるようになりました。この認識の転換により、私の制作方法は大きく変わりました。現在では、予測不可能性を創作過程の一部として受け入れています。スタイルはより静かになり、腐敗に対してより開放的で、制御に依存しなくなりました。周囲の人々は、私の作品をより親密で生き生きとしたものと感じ始めています。






Q. 創作の過程で直面した恐れや困難は、特定の作品の誕生と深く結びついています。特に制作が困難だった作品でありながら、その過程を通じて重要な気づきを得たり、大きな達成感を感じた作品についてお話しいただけますか?その作品にまつわる経験が、現在どのような意味を持つのか、お聞かせいただけますと幸いです。

A. 最も困難に直面した作品の一つは、「菌絲對話」シリーズの中の一作品です。無菌状態でカニの殻に菌絲を培養しようと試みましたが、予期せぬカビがその場を占めました。最初は制御の失敗のように感じて挫折しました。しかし、やがてカビが静かに、そしてしぶとく生えてくる様子を見て、腐敗を崩壊ではなく変化として理解し始めました。その瞬間がアプローチを一変させるきっかけとなりました。これにより、失敗が独自の創作の形を持ち得ること、そして時には素材が自分よりも多くのことを知っていることを教えてくれました。







菌糸対話 (Mycelial Dialogues菌絲對話)#1






菌糸対話 (Mycelial Dialogues菌絲對話) #2





Q. そうした経験は、作家にとって重要な「転換点」となったのではないでしょうか。その転機を境に、ご自身の芸術世界や制作アプローチにはどのような変化が生まれましたか?また、その後の作品がどのように発展を遂げてきたのかもお聞かせください。


A. その経験は、素材をそのままの形で受け入れることの大切さを教えてくれました。それ以来、結果を制御することから、それらと共存することへとシフトしました。制作のプロセスはよりゆっくりと進み、予測不可能性や時間による変化に対してより開放的になりました。腐敗を失敗ではなく、共に作品を形作る協力者として扱うようになりました。この変化は、表現の幅を広げ、生きた素材の延長として音や空間、インスタレーションへと導いてくれました。






Q. その転機以降、芸術を通じて伝えたい核となるメッセージや価値観にも変化はございましたか?もしそうでしたら、最も重要な変化とはどのようなものでしょうか?


A. はい。その転換点以前は、再構成と視覚的な一貫性に焦点を当てていました。しかし、それ以降は、完全に修復できないもの、すなわち残留物、ゆっくりとした動き、生存の小さな仕草により関心を持つようになりました。最も大きな変化は、傷を解決しようとするのではなく、その傷と共にあり、それがどのように呼吸し、漏れ出し、変容するのかを見守るようになったことです。今では、私の作品は明快さよりも繊細さを、解決よりも存在感を重視しています。ジェーン・ベネットが言うように、「物質の生命力」は支配ではなく、注意深い観察を求めます。これは谷崎潤一郎の不完全さに対する静かな畏敬の念と通じるものがあると考えています。そこでは、影、変色、未完成は欠陥ではなく、美の一形態として現れます。






Q. 今でも最も大切にしている「あの瞬間」はどのような意味を持ち、これからの制作や人生にどのような影響を与え続けているのでしょうか?もしその瞬間を一言、あるいは一文で表現するとしたら、どのように表されますか?


A. 作品がカビによって静かに制御を失ったあの瞬間は、私に「聞くこと」の重要性を教えてくれました。今でもその瞬間を大切にしています。それは創作に対する私の関係を変えました。形を指示することからプロセスを共にすることへ、予測することから注意を払うことへと変わったのです。その瞬間は今でも、ゆっくりと動き、縁で成長するものに目を向けるように、そして腐敗が語ることを許すようにと私に思い出させてくれます。一言で表現するならば、「受容」と考えております。







Kara #4





Q. 作家としてのアイデンティティを形成する上で影響を受けた人物や作品、あるいは環境がございましたら、ご紹介いただけますでしょうか?そうした影響が現在の制作にどのように反映されているかも併せてお聞かせいただければと思います。


A. 作品は、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』、ジェーン・ベネットの『生きている物質』、そして山本昌男の静寂な写真に深く影響を受けています。谷崎からは、浸食、残留物、不完全な光の中に美を見出す方法を学びました。ベネットからは、物質が能動的で表現力豊かであり、私たちと対話していることを理解しました。山本からは、静けさとスケールがイメージの重みをどのように変えるかを学びました。これらの声は、単なる参考資料ではなく、感覚し、構想し、作品が現れるための基盤として、作品を引き続き導いています。






Q. 影響を受けた人物や作品は、創作過程でどのような役割を果たしていますか?


A. 
山本昌男の静かで瞑想的なイメージ、特に「Bonsai」と「Sasanami」は、私の世界の見方を形作りました。それは、ゆっくりと、注意深く、微細に観ることを教えてくれます。「Sasanami」でのサウンドアーティストとの協業は、「Kara」プロジェクトのサウンド要素に深いインスピレーションを与えました。同様に、日本のアーティスト、マリ・カタヤマの作品は、彼女が自身の身体、傷跡、義肢を写真、彫刻、パフォーマンスを通じて扱う方法を示しています。これにより、個人的なトラウマが物質を通じて外在化される可能性を考えさせました。彼女の勇気と繊細さは、身体が主題であり、また媒体となり得ることを示しています。これらのアーティストは、単に私のスタイルに影響を与えただけでなく、私の作品が感情と物質を通じて表現される道を開いてくれました。






Q. これまでの転機を踏まえて、ご自身の芸術世界がどのような新しい方向へと広がっていくことを望まれますか?現在最も興味深くお考えになっている新しいアイデアや未知の領域がございましたら、お聞かせください。


A. 
現在、腐敗したり、変異したり、制御が難しい素材、例えばカビ、菌類、骨、割れた殻に心を奪われています。物質がアーティストの意図を超えて自らどのように振る舞うかに強く興味を持っています。生体材料の成長と写真の時間性を融合させたハイブリッドなインスタレーションを通じて、生きているものと協力することが何を意味するのかを探求したいと考えています。同時に、音を存在、記憶、あるいは警告の形で活用する音の要素をさらに発展させたいと思っています。私の作品は、再現から脱却し、より生態的で、予測不可能で、生き生きとした方向と進んでいます。






Q. 将来のご自身に向けて、あるいはこれから芸術の道を歩み始めようとする方々に向けて、お伝えしたいメッセージがございましたらお聞かせください。


A. 
まず、焦らずに進んでください。あまりにも早く理解されようとしないでください。作品が私たちを未知の場所へと導くことを許し、素材を信頼してください。それがたとえ腐敗するときであっても。そして、すべてが崩れたときには、注意深く観察してください。ひび割れの中にも常に何かが成長しています。






Q. 本日は貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。最後に、この質問では触れられなかった他のエピソードがございましたら、お話しいただけますでしょうか?また、追加でお伝えしたいお考えやご自身の内省がございましたら、ぜひお聞かせください。


A. 
作品を完全に説明するための適切な言葉を見つけられないかもしれないことを受け入れるようになりました。それが本質なのかもしれません。あるものは、質感、息づかい、そして腐敗を通じて静かに感じ取ることができるものです。私の作品が、言葉を超えたところで何かを響かせることができればと願っています。












Contact

アーティスト : Syan Hu

インスタグラム : @aristurtle527


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