
Q. u1ギャラリーへようこそ。この度は貴重なお時間をいただき、心より感謝申し上げます。まずは自己紹介と作品についてお聞かせいただけますか。また、作品を作り始めたきっかけについても教えていただけますでしょうか。
A. 約30年前に京都にある美術大学の洋画コースを卒業して以来、そのまま京都で、ギャラリースタッフ、美大・高校教員等の美術に関する仕事を続けておりました。2022年4月に秋田県の実家に戻ったことをきっかけに作品発表を始めました。20年前くらいにクラシックバレエ教室の撮影依頼を受けたことからでした。自分の切り取る構図が少し人と違うことを意識したことが作品制作を始めるきっかけとなりました。
Q. ご自身の作品の中で、キャリアにおいて重要な役割を果たしたと思われる作品やシリーズがございましたら教えていただけますでしょうか。
A. この個展が自分の作品を初めて皆様にご紹介することになりますので判りません。ただし、今回の「Paris」シリーズは、自分が将来写真を極めたいと意識する弾みとなったものですので、その意味では今回のシリーズが重要な役割を果たしていると言えるのかも知れません。

Q. 制作のプロセスや表現方法についてお聞かせいただけますでしょうか。
A. 私の制作コンセプトは「一期一会」。茶道に由来する日本のことわざで、「一生に一度だけの機会」を大切にしなさいという意味です。私の撮影対象は、私を取り巻くすべての人、モノを含む「環境」なのですが、それらに出会うシチュエーションは一度しかありません。そしてそれらは常に移り変わり過ぎ去ってしまいます。そこにはつい見逃してしまいがちな「光景」が潜んでいます。それらの「一瞬」を「方形」で切り取る「写真」という手段で、顕在化することに私は惹かれるのです。そして私にとって、それらの行為は表現者のコントロール範囲外な存在であることに魅力を感じます。例えば、モチーフの位置を調整する行為は、表現者の「偶然の機会への関与」であり「作為」になってしまいます。その瞬間に「一期一会」の精神、「出会いを尊重する精神」を愚弄してしまうことになると考えるからです。

Q. 影響を受けたアーティストや作品はございますか?
A. これまで大変多くのアーティストや作品に出会ってきました。それらの全てが私へインスピレーションを与えてくれる存在です。その中で、あえてお一人のお名前をあげさせていただくとするならば、写真家の「セイケトミオ」さんの作品に大きな感銘を受けました。ある写真雑誌に掲載された窓枠越しに遠景の建物が映り込んでいるセイケさんの写真を見て、その瞬間に心を打たれたのがきっかけでした。セイケトミオさんの作品の中で、街角のスナップはどれも日常の風景を切り取ったものが多いのですが、とてもさりげなく、しかし、しっかりとその光景を魅力あるものに昇華されています。また、ポートレイトはその性格や感情、シチュエーションが滲み出てくるようです。自分もいつかこのような表現がしたい。この高みに辿り着きたい。そう思ったのです。

Q. 作品のインスピレーションはどこから得ているのでしょうか?
A. 前述の通り「一期一会」という精神から、自分でその撮影対象についてアプローチすることは控えています。あくまでも出会ったままで作画します。こうした理由から、撮影をするときには「こんな写真を撮りたい」といった邪念を持たないようにしたいと思っています。
そのため、自分の守備範囲を広げておき、どのような「一期一会」がいつ訪れても「気づく」ことができるように、撮影をしていないときには、できる限り写真に限らず多くの優れた作品に触れるように心がけています。それが作品作りのインスピレーションに通じているのだと追います。
Q. ご自身のアートを通して、観客にどのようなことを感じてもらいたいとお考えでしょうか?
A. 作品と出会った感覚は「鑑賞者のもの」です。ですから、私は鑑賞者も同じく作品と出会った時の「一期一会」を感じてほしいと思っています。そこに何かの「気づき」があったのなら幸いです。

Q. 今後の制作において挑戦したいことや、意識していきたいことについて教えていただけますか。また、アーティストとしての今後の計画や抱負についてもお聞かせください。
A.作品制作時には、いつも葛藤があります。
作画をする時、常に心がけていることは「自分らしいか」ということです。フレーム内をどんな構成にするか。明るさ、色や形、動き、雰囲気等々それらの組み立てをいかにするのか。何を入れて、何を省くのか。その組み合わせは無限にあります。それを決定するのは自分であるので、自分らしい表現でなければ意味がありません。しかし、「自分らしい」という枠を設定することはマンネリ化、フォーマット化する行為でもあります。
常にそうした「作画決断」と「矛盾行為に陥る罠」という葛藤が自分を苦しめるのです。
その解決方法は、作品を振り返り、疑問点や反省・次の課題を見出せるように、常に自分を成長させ続けることしかありません。しかし、自分はどの程度成長しているのかを短期間で自ら把握することは困難です。そこで、自分を客観的に眺められるように定期的に発表をする必要があります。ですから、今後は、今回のように定期的に個展という形で発表を続けたいと思います。そしてその次のステップはそれらを見ながら進めたいと思います。

Q. 読者に「Hiroshi Yamaoka」というアーティスト、またはYamaokaさんの作品について知ってもらいたいこと、もしくはこれだけは伝えたいということがあれば教えていただけますか。
A. 今回の個展のテーマは「Paris」とさせていいただきました。多くの写真作家が同名の題目で個展や写真集にまとめていますが、私の場合少し他の方々の狙いとは、ずれがあるように感じています。
私の作品群に映されている光景は、確かに「Paris」で切り取られたものです。その撮影地でしか表現できない「一期一会」としての結果を提示させていただいております。しかし、私の作画行為は「場所の特徴」を表現することが最重要観点ではありません。つまり「Paris」の情景を表現することだけを第一義とは考えていません。そこが他の写真作家と私とのズレを自分自身で感じているところなのです。
私が前述と同時に意識していることは、「フレーム内をどんな構成にするか。」という写真表現者の宿命と対峙することです。そのごく当たり前の行為を重要視したいのです。
ただし、私にとって「場所を表現すること」と「構成を重要視すること」の二つを分けることはできません。その二つが融合され、自分しかできない表現を追求している行為の「経過報告」が私が第一義としている「作画行為」ということになります。
現在のアートの世界では「コンテキスト」が重要であるとされています。多くの優れたアーティストが現在はその潮流に沿って活動しています。一方、今の所、私はこの潮流に沿うことを優先していません。もう少し活動を重ね、自分を振り返り定点観測ができた際にあらためて自分がどのようなコンテキストに沿っているのかを分析したいと考えています。一人でも多くの方に私の「作為行為」を定点観測していただけるように努力を重ねていきたいと思います。

Contact
Artist : Hiroshi Yamaoka
Instagram : @hiroshi_yamaoka
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