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The First Chapter : Interview with Kavieng Cheng (English ver.)

This conversation marks the tenth interview in the series *'Defining Moments: The First Start or the Turning Moment'*. We meet Kavieng Cheng, a multidisciplinary artist from Hong Kong whose practice flows between the roles of artist, art director, curator, and fashion photographer. For Kavieng, these are not separate professions but shifting lenses through which she interrogates reality—art as a phenomenological mode of existence, a continuous practice of sensing the world and questioning the given. Her work operates as an archaeology of the micro-psychological, drawn to the pre-linguistic realm: gestures that occur before words form, tensions held in the body, and fragmented moments that escape the conscious filter. Working across print, wood sculpture, and laser-cut forms, she explores the paradox between organic warmth and violent precision—a duality that mirrors the human psyche, structured yet chaotic, resilient yet profoundly fragile. It was her high school teacher Ms. ...

The First Chapter : Interview with Seojeong Moon (Japanese ver.)

 






本インタビューは、シリーズ『Defining Moments』第1章「制作のはじまり、あるいは転機となった瞬間」を開く第一回です。


韓国出身の作家は、伝統絵画の語法を基点に具象と抽象のあわいを往還しながらプラクティスを深め、参照画像をあえて退けて白い画面と対峙する時間のなかで、記憶と感情を統御の行き届いた造形言語へと置き換えてきたと語ります。連作『心鏡(シムギョン)』は海霧という一瞬の感覚を起点に、時間性と場所性のレイヤーを重ね、画面に澄んだ緊張とゆたかな余白を築き上げます。私的なナラティブは鑑賞者の読みと出会うことで射程を広げ、その広がりは整合のとれた作品の内部で静かに呼吸します。本インタビューでは、始動を可能にした推進力、方向を変えた転回点、折々に訪れた不安や逡巡、そしてその後に生じたメッセージの変化を、作家自身の言葉に寄り添いながら丁寧にたどります。かつて掠めた像が画面の構造として定着し、さらに各人の経験と重なって別様の響きを帯びていく過程を追ううちに、作品の向こう側にある瞬間が、いまこの場の鑑賞と静かに結び直されることと存じます。


本テキストは、作家の声を最大限に尊重し、意味の明瞭さを保つために最小限の校正のみを施しました。この文章が作品理解への小さな灯火となり、皆さまの鑑賞体験に寄り添うことができれば幸いです。それでは、ここからは作家自身の言葉に耳を傾けてまいりましょう。



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Q. 本日はお時間をいただき、ありがとうございます。まずは、作家としてご自身をどのように紹介されたいか、そして特に心を寄せて取り組んでおられる制作や活動について、よろしければお聞かせいただけますか。


A.
私は実際に訪れた場所の体験を手がかりに、実在しない「心の風景」を描いています。流れ落ちる水のイメージを媒介にして、そこで生じた感情を余白と形象へとゆっくり立ち上げ、画面に置き換えています。そうした作品を通じて、鑑賞者の方々がそれぞれの記憶や時間に静かに触れ直せることが、制作の大きな目標です。鮮やかでありながら輪郭の定かでない記憶や、その内側から立ち上がるほのかな感情を、風景のかたちで可視化することに取り組んでいます。人は同じ時空を共有しても、抱く記憶や感情は一人ひとり異なります。だからこそ、私の作品が鑑賞者ご自身の個人的な感情や経験を穏やかに振り返る小さなきっかけになればと願っています。








Q. アーティストとして歩み始めたきっかけ、あるいは制作に深く没頭することになった決定的な瞬間はありましたか。当時のご経験や感情、そしてその瞬間を思い返したときに最初に立ち上がる情景や感覚があれば、お聞かせください。


A. 私がアーティストの道を志した原点は、伝統文化と歴史への深い愛着にあります。幼い頃はさまざまな進路を考えていましたが、恩師が私の強みと資質を見抜いて背中を押してくださり、志望していた美術大学へ進学いたしました。大学では東洋画を専門的に学び、当初はどこか馴染みが薄く感じられたものの、体系的に学べることへの感謝と大きな高揚感がありました。卒業制作展ののち公募展に入選し、作品を紹介する会場で、私がアーティストとして歩み出す契機を与えてくださった方に偶然お目にかかることもありました。さらに、かつて私が東洋画を教えた教え子が「アーティストを目指したい」と訪ねてくれた出来事も重なり、制作し、作品を公開し、鑑賞者の反応に向き合うとき、作家として生きているという実感が強くなります。制作に没入する決定的な一点を明確に特定するのは難しいのですが、美しい記憶がふとよみがえる瞬間に、その感覚が訪れます。私にとって、愛と哀しみは切り離せないものです。愛しているからこそ哀しく、哀しみがあるからこそなお愛おしいそのように感じています。





Q. 制作の過程でスランプや困難に直面されたことはありますか。その時期をどのように乗り越えられ、またそのプロセスがご自身のスタイルや方向性の確立にどのような契機となったのかお聞かせください。あわせて、その過程で周囲の反応や制作環境に変化はありましたか。


A. 人生の局面では揺らぐことがあっても、制作を続けられるという事実が心の足場になり、感情が大きく振れることはあまりありません。スタジオには難所もありますが、強いストレスとしては受け取りません。むしろ課題だったのは、「自分らしさ」にかなう言語と方向を見つけることでした。学部3年の頃、マテリアルリサーチや技法実験を重ね、授業の中で具象と非具象を往還するうちに、作品の前景に「私」をどう立ち上げるかが少しずつ見えてきました。現在の主題や方法は当時から変化していますが、その時期が固有のトーンを見出す入口になったと思います。周囲からも「あなたの感性や色がはっきりしてきた」と言われるようになりました。あわせて方法も更新し、参照画像(リファレンス)への依存を減らして、記憶や感覚を喚起する程度にとどめ、白い画面から組み上げる作業へと移行しました。結果として、内的な状態により深く集中できるスタジオ環境へ再設計できたと感じています。要するに、平静はプロセスの継続から、方向性は作品と長く向き合う時間の中から、ゆっくりと言語化されていきました。





Q. 制作の過程で直面された最も大きな不安や挫折の瞬間があれば、その経験が現在のプラクティスにどのような意味を持っているのかお聞かせください。


A. 「非具象の表現だけで鑑賞者に十分な視覚的説得力を持ちうるのか」その点に長く不安を抱えていました。自分にふさわしい絵画のスタイルを探る中で、振り返れば多くの制約を自分自身に課していたのだとも感じます。逆説的ではありますが、観察にもとづく描写や写実の制作に腰を据えて取り組んだことが、私により適した方法を見極め、作品世界を築いていくうえでの確かな土台になりました。





心鏡 1, 韓紙に墨, 162.2 × 130.3 cm, 2024






Q. 先ほどお話しくださった転機は、作家としての表現と言語、そして制作プロセスにどのような変化をもたらしましたか。以前との違いを具体的にお聞かせいただけますか。


A. 以降は、具象と抽象のあわい(閾)を往還しながら画面を組み立てることが核になりました。連作『心鏡(シムギョン)』は「心の風景」として構想され、コンセプトは抽象に寄りつつも、地形や地平、水面をほのかに想起させる微細な具象の手がかりを画面に呼び込みます。いまは、統御の行き届いた曖昧さを保ちながら、余白の配分や「間(ま)」、呼吸するような空間の気圧を重んじています。以前のようにモチーフを記述することよりも、雰囲気と奥行き、視線の滞留点を調整することでスケールや場を立ち上げる点が、大きな変化だと感じています。






心鏡 14, 韓紙に岩絵具・水溶性ドライメディア, 162.2 × 97.0 cm





Q. その後、作品を通じて伝えたいメッセージや価値観に変化はありましたか。もしあれば、どの点が最も大きく変わったとお考えですか。


A. これまで多様な展覧会や作家の実践に触れるなかで、社会的なテーマを正面から扱う表現と、きわめて個人的な物語を掘り下げる表現のあいだで、自分の制作をどこに位置づけるのか考え続けてきました。最終的には、メッセージが非常に私的なものであっても、あるいはときに観念的に映るものであっても、どちらも等しく意義のあるアプローチだと考えるようになりました。美術は、私たちが自分自身と社会を多角的に見つめ、そのまなざしを表現として分かち合う営みだと捉えています。


私自身の制作では、個人的な物語を比喩を介して紡いでいます。そして、鑑賞者の解釈や作品との対話を通じて、意図する意味がいっそう豊かさを増していくと感じています。作家の意図を超えて、ご鑑賞くださる方それぞれの感情や記憶が自然に立ち現れてくることを願っています。





Q. アーティストとしてのアイデンティティを形作るうえで影響を与えた人物、作品、あるいは環境があればご紹介いただけますか。また、その影響が現在のプラクティスにどのように反映されているのか、お聞かせください。


A.
影響は数え切れないほどありますが、いずれも私を制作へと向かわせる推進力を与えてくれた存在だという点で共通しています。いまも傍らにいる人もいれば、すでに不在となった人もいますが、その静かな支えは確かに残っています。私のプラクティスは私的な経験から立ち上がりますが、鑑賞者もまたそれぞれの記憶や誰かとの関係、感情の襞を抱えています。その共鳴点に触れるところで、主題やモチーフを選び取ることが多いです。作品には直接的な引用としてではなく、気配や間(ま)、呼吸の速度として浸透し、画面(ピクチャー・プレーン)上のスケールやトーン、エッジの扱いにそっと現れます。ときには、韓国で見た風景や交わした言葉、伝統絵画の所作が、名指さずに作用する痕跡として判断を導きます。私にとって「影響」とは、見守る視線のように作品の内部に留まり、鑑賞者の記憶と出会う余地をひらく倫理でもあります。





Q. 最後に、いまのご自身にとって最も大切に残っている「その瞬間」はどのような意味を持ち、今後の制作や暮らしにどのような影響を与えているとお考えですか。もしその瞬間を一文、あるいは一語で表すとすれば、どのように言い表されますか。


A.
海霧(かいむ)。暖かい空気と冷たい海面が出会うときに生じる現象で、韓国語ではヘム(haemu)と呼ばれます。あの瞬間は当時の私をそのまま抱え、内に溜まった感情がかたちを得て静かに立ちのぼる契機になりました。痛みを帯びながらも手放したくない記憶や感情の断片を、どうにか作品として留めておきたくて制作を続けています。制作の途上で、平凡な日常がふいに「記憶の風景」へと反転し、画面上で時間が凝縮して戻ってくることに気づきました。戻ることも、やり直すこともできないからこそ、目の前の一瞬がいっそう貴重になりました。これからのプラクティスは、その瞬間にとどまる注意深さとケアへと開かれていくのだと思います。一語で言えば、「海霧」です。





Q. 将来のご自身へ、あるいはこれから美術を始める方へ、ひとことメッセージをいただけますか。


A. 私にとって美術は、視覚という媒体を通して「私」をかたちにしていく営みです。方向性やインスピレーションは天候のようにふいに訪れるものだと思います。無理に追いかけるより、日々のプラクティスを重ね、そのための余白を整えることが大切です。何より、制作を楽しむ気持ちを手放さないでください。その静かな喜びが時間を支え、きっと作家であり続けるための糧になるはずです。





Q. 最後に、本日の対話で語りきれなかったことがあれば、どうぞお聞かせください。ご多忙のところ貴重なお時間を割いてくださり、また作品世界を読者の皆さまに惜しみなく開いてくださったことに、心より感謝申し上げます。


A.
公の場で作品をご覧いただける機会をいただくことは、本当にありがたく思っています。展示空間では、いまの私と制作に影響を与えてくれた方々と出会えることもまた、一つのご縁だと感じます。私たちは生きるなかで幾つもの約束を交わしますが、守ろうとしても守れないこともあります。連作『心鏡(シムギョン)』が呼びかける相手には、果たせなかった約束がいくつか残っています。私はいまも、あなたとの最後の約束を少しずつ果たしているところです。あなたはいま、どこに立ち、何を見ていますか。あの時そばにいてくれて、いまの私を形づくってくれて、ありがとう。しばらくは、あなたをキャンバスの内にそっと留め、別の心の相を抱いてみようと思います。どうか穏やかな風が、あなたに届きますように。作品とこのインタビューに触れてくださる皆さまにもお尋ねしたいのです。漂う多くの記憶のなかで、あなたの「心の鏡」はどこにとどまり、何を見つめているのでしょうか。













Contact
アーティスト : ムン・ソジョン

インスタグラム : 
@moorin.art




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